物を盗られたと言うときの受け止め方

高齢の家族から「財布を盗られた」「通帳がない」「誰かが部屋に入った」と言われると、家族はとても傷つきます。毎日のように食事を用意し、洗濯をし、通院に付き添っている家族ほど、「こんなに支えているのに、どうして疑われるのだろう」と悲しくなると思います。

頭では、本人に悪気があるわけではないと分かっていても、実際に「あなたが持っていったんでしょう」と言われると、悲しさだけでなく怒りも出てきます。穏やかに受け止めたいと思っていても、何度も同じことを言われるうちに、返事をするだけで気持ちが削られていく日もあります。

一方で、本人の中では「大切な物が見つからない」という不安が本当に起きているのかもしれません。事実と違っていても、本人には「なくなった」「誰かに取られた」という感覚が強く迫っていて、その不安をどう説明してよいか分からないまま、家族に訴えていることも考えられます。

この記事では、高齢の家族が「物を盗られた」と言うときに、疑われた家族のつらさを無視せず、本人の不安にも飲み込まれすぎない受け止め方を考えていきます。

疑われる家族のつらさを軽く扱わない

物を盗られたという訴えは、介護する家族の心を大きく揺さぶります。財布や通帳が見当たらないと言われるだけでも緊張しますが、「あなたが盗った」と名指しされると、家族としての信頼を失ったように感じてしまいます。

介護の中心になっている家族は、本人の部屋に入る機会が増えます。洗濯物を片づける、薬を確認する、貴重品の場所を把握するなど、生活の細かな部分に関わるからこそ、本人から疑いを向けられやすい立場になることがあります。

そのようなときに、「認知症かもしれないから仕方ない」と頭で理解しようとしても、気持ちは簡単に割り切れません。疑われた家族が傷つくことも、腹が立つことも、少し距離を置きたくなることも、介護をしている側の自然な反応だと思います。

本人への対応を考える前に、疑われている家族自身もつらい立場にいるという前提を持っておく必要があります。家族が限界まで我慢し続ける形では、本人への関わり方もだんだん荒れてしまいます。

本人の中では「本当にない」と感じている

物を盗られたと言う背景には、物を置いた記憶が抜け落ちていることがあります。本人が財布を別の引き出しに入れたとしても、その記憶が残っていなければ、本人の中では「急になくなった」という出来事になります。

財布、通帳、印鑑、保険証、鍵などは、生活そのものに関わる大切な物です。昔から大事にしてきた写真や手紙も、本人にとっては自分の人生と結びついた物なので、見つからない不安が大きくなるのも無理はありません。

家族から見ると「また自分でどこかにしまったのだろう」と思えても、本人はその流れを思い出せずに困っています。そこに「自分で置いたんでしょう」と言われると、本人には責められたように聞こえ、かえって不安が強くなることもあります。

「盗られた」という言葉は家族にとってつらいものですが、本人の中では「大切な物がなくなって困っている」「誰かに助けてほしい」という訴えが、そういう形で出ているのかもしれません。

最初の一言は反論よりも不安を受け止める

疑われた家族としては、「盗っていない」とすぐに言いたくなります。事実と違うことを言われ続けるのは苦しいですし、自分の潔白を分かってほしいと思うのは当然です。

それでも、本人が強い不安の中にいるときに最初から事実をぶつけると、会話がこじれてしまうことがあります。「盗っていない」と返す前に、「見つからないと心配ですね」「大事な財布ですもんね」「一緒に探してみましょう」と言葉を置くと、本人の不安に少し寄り添う形になります。

これは、本人の言い分をすべて認めるという意味ではありません。家族が盗ったと認める必要はなく、本人が困っている気持ちに一度触れてから、探す行動へ移るという考え方です。

疑われた家族にとっては、かなり我慢が必要な一言かもしれません。それでも、最初の言葉を少し変えるだけで、言い争いに入る前に流れを変えられることがあります。

本人の言葉 強く返したくなる言葉 言い換えの例
財布を盗られた 誰も盗っていないでしょ 財布が見つからないと心配ですね。一緒に探してみましょう。
通帳がなくなった また自分でしまったんでしょう 大事なものですから気になりますね。いつもの場所を見てみますね。
誰かが部屋に入った そんなことあるわけない 不安になったんですね。部屋の中を一緒に確認してみましょう。
あなたが持っていった 失礼なことを言わないで 疑いたくなるくらい、大事な物がないと困りますよね。まずは一緒に探してみましょう。

一緒に探すときは責める言葉を足さない

物を探すときは、家族だけで先に見つけて「ここにあったよ」と渡すより、本人と一緒に確認する形のほうが落ち着くことがあります。本人の目の前で、いつもの引き出し、バッグ、上着のポケット、枕元、仏壇の近くなどを順番に見ていきます。

このとき大切なのは、家族が早く正解を見つけることだけではありません。本人が「一緒に探してもらっている」「困っていることを無視されていない」と感じられる時間になると、見つからない不安が少し落ち着くことがあります。

とはいえ、毎回長い時間をかけて探すと、家族は疲れ切ってしまいます。よく探す場所を三つほど決めておき、「まずここを見てみますね」と同じ順番で確認すると、探すたびに家中をひっくり返す負担を減らせます。

見つかったときは、「ほら、あったでしょう」「やっぱり自分でしまったんじゃない」と言いたくなるかもしれません。けれども、その一言で本人は責められたように感じ、次にまた物が見つからないときに、さらに不安を強めることがあります。

見つかった後は、「ここにありましたね」「見つかってよかったですね」と短く終えるくらいで十分です。原因を説明して納得してもらおうとするより、見つかった安心感を残して終えるほうが、家族も本人も次の会話へ移りやすくなります。

よく探す物は置き場所を決める

同じ物を何度も探すなら、置き場所をできるだけ固定します。財布はこの箱、鍵は玄関横のトレー、保険証はこのポーチというように、家族も本人も確認できる場所を作っておくと、探し始める場所が決まります。

箱や引き出しには、大きめの文字で「財布」「鍵」「保険証」と書いておくと、本人にも家族にも分かります。質問されたときも、「財布の箱を一緒に見てみましょう」と同じ言い方で確認できるので、家族が毎回違う説明をする負担も少し減ります。

本人が大切な物を何度も移動させるときは、普段本人が確認できる物と、家族が管理する物を分けて考える方法もあります。たとえば、本人が持つ財布には少額の現金を入れ、通帳や印鑑は家族が管理する形にすると、本人の確認したい気持ちと紛失への備えを両方考えられます。

本人に黙ってすべてを隠してしまうと、不安が強まるかもしれません。本人が手に取って確認できる物を少し残しながら、盗難や紛失を防ぐ形を考えるほうが、家庭内の緊張を抑えられます。

本当に盗難がないかも落ち着いて確認する

物を盗られたという訴えが続くと、家族は「また勘違いだ」と思ってしまいます。何度も同じことを言われると、そう感じるのも無理はありません。

一方で、高齢者の家には、訪問販売、修理業者、知人、近所の人、介護サービスの関係者など、家族以外の人が出入りすることもあります。本人の訴えをすべて思い違いと決めつけず、財布の中身、通帳の出入金、訪問者、鍵の管理、家に入った人の記録などは落ち着いて確認します。

事実確認をすることは、本人の訴えに振り回されることとは違います。本人の不安を受け止めながら、家族として確認すべき点は確認するというように、気持ちの受け止めと事実の確認を分けて考えると、対応に少し落ち着きが出ます。

介護サービスを利用している家庭では、現金や貴重品の管理ルールを先に決めておくと、あとから説明しやすくなります。訪問介護やデイサービスの事業所、ケアマネジャーにも、貴重品はどこに置くのか、サービス中に扱わない物は何かを共有しておくと安心です。

疑われる家族だけで対応し続けない

いつも同じ家族だけが疑われると、その人の心の負担はとても大きくなります。同居している家族や、介護の中心になっている家族ほど、本人と接する時間が長く、疑いの言葉を直接受ける機会も増えます。

疑われた家族が「自分が我慢すればいい」と抱え込むと、介護そのものが苦しくなります。本人の不安に向き合うことと、疑われた家族が傷つき続けることは、別に考えてよいと思います。

ほかの家族が電話で話す、探す役を交代する、ケアマネジャーに相談する、訪問介護やデイサービスのスタッフに関わってもらうなど、本人と関わる人を少し増やします。説明役や探す役を一人に固定しないだけでも、疑われる家族の負担は変わります。

疑われている家族が本人と少し距離を取る時間も必要です。それは冷たい対応ではなく、介護を続けるための休憩として考えてよいと思います。

言い争いになりそうなときは決着を急がない

本人が強い口調で「あなたが盗った」と言い続けると、家族も冷静ではいられません。怒り、悲しさ、情けなさが一気に出てきて、事実を分かってもらいたくなります。

けれども、その場で正しさを証明しようとすると、話が長引いてしまうことがあります。本人も家族も興奮しているときは、「少し探してみますね」「お茶を飲んでから、もう一度見てみましょう」と、いったん間を置きます。

本人の前から離れるときは、急に無視するのではなく、「台所を見てきますね」「少し水を飲んできますね」と短く伝えます。家族自身も、別室で数分休む、水を飲む、深呼吸する、ほかの家族に代わってもらうなど、強い言葉をぶつける前に距離を取る工夫を用意しておきます。

急に訴えが増えたときは体調の変化も確認する

これまで物を盗られたと言わなかった人が、急に強く訴えるようになったときは、体調や生活の変化も確認します。発熱、脱水、便秘、尿路感染、睡眠不足、痛み、薬の変更などで、いつもより混乱や不安が強く出ることがあります。

家族が気づいた変化は、受診や相談のときに役立ちます。「いつから増えたか」「何を盗られたと言うのか」「誰を疑うのか」「昼と夜で違いがあるか」「食事、水分、排尿、睡眠に変化があるか」をメモしておくと、専門職に状況を伝える材料になります。

幻覚のような訴え、強い興奮、暴言や暴力、家を飛び出す行動があるときは、家庭内だけで様子を見続けるのは家族にとっても危険です。かかりつけ医、訪問看護師、ケアマネジャー、地域包括支援センターへ相談します。

まとめ

高齢の家族が「物を盗られた」と言うとき、疑われた家族が傷つくのは当然です。毎日支えている相手から責められるような言葉を向けられると、穏やかに受け止める余裕がなくなる日もあります。

本人の訴えが事実と違って見えても、本人の中では「大切な物がなくなった」という不安が強くなっているのかもしれません。最初から否定するより、「見つからなくて心配ですね」と受け止め、一緒に探し、見つかった後も責めない形にすると、言い争いを避けられることがあります。

同じ物を何度も探すときは、財布や鍵の置き場所を一つに決めたり、ラベルを貼った箱やトレーに戻す習慣を作ってみましょう。通帳や印鑑などは家族が保管し、本人が確認したい財布には少額の現金だけを入れておくと、探す場所が限られ、毎回の言い争いを減らすことができます。

参考資料

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