高齢になると、のどの渇きを感じる機能が少しずつ弱くなっていく傾向があります。そのため、本人が「のどは渇いていない」と言っていても、体の中では水分が不足しているケースもありえます。水分不足が続くと、ふらつきや便秘、食欲の低下、ぼんやりした様子といった体調の変化を招き、場合によっては脱水症状に繋がることもあります。ご家族としては無理に飲ませようとするのではなく、本人が無理なく受け入れられる形で、水分を摂る習慣を優しく作っていくことが大切になります。
水分を飲みたがらない主な理由
高齢者が水分を摂りたがらない背景には、いくつかの理由が重なっていることが多いといわれています。のどの渇き自体を感じていないことのほか、「トイレが近くなるのを避けたい」「冷たい飲み物でお腹が冷えるのが苦手」「飲むときにむせるのが怖い」「わざわざ飲み物を用意するのが面倒」など、本人なりの理由や不安が隠れていることがあります。
また、認知症の兆候がある場合は、飲む必要性そのものを忘れてしまったり、目の前に置かれた飲み物に気づけなかったりすることもあります。本人に「どうして飲まないの?」と尋ねるだけでは理由が分かりにくいため、「飲まない時間帯はあるか」「どんな飲み物なら口にするか」「トイレやむせへの不安はないか」といった視点で、日頃の様子をそっと確認してみるのがおすすめです。
脱水に注意:身体の変化
水分不足のサインは、急に重い症状として現れるとは限りません。はじめは、なんとなく元気がない、食欲が落ちてきた、といったささいな変化から始まることがあります。以下のような様子がないか、日頃の生活の中で意識して確認してみましょう。
- 口の中や唇が乾燥している
- 尿の色がいつもより濃くなっている
- 尿の回数や量が明らかに少ない
- 便秘がちの日が続いている
- 立ち上がったときにふらつくことがある
- なんとなくぼんやりしている時間が多い
- 食事の量が全体的に減ってきた
- 皮膚の張りが以前より弱くなっている気がする
もし、ぐったりしていて受け答えがはっきりしない、水分を全く受け付けない、発熱や下痢、嘔吐などの症状を伴っている場合は、様子を見ずに早めに医療機関へ相談してください。
一度にたくさん飲ませようとしない工夫
あまり水分を摂らない人に対して、大きなコップで一度に飲み物を出してしまうと、それだけで視覚的な負担を感じさせてしまうことがあります。水分補給は、少量を何回かに分けて提供する方が、本人も受け入れやすくなります。例えば、朝起きたとき、食事の前後、お薬を飲むとき、入浴の前後、外出の前後など、生活の区切り(タイミング)に合わせて出すと、自然と習慣にしていきやすくなります。
コップ半分程度の少量であっても、回数を重ねることで一日のトータルの摂取量を増やすことができます。ご家族が「今日どのくらい飲んだか」を把握したい場合は、お気に入りの水筒や目盛りのついたピッチャーにあらかじめ一日の目安量を用意しておくと、減った量が一目で分かって便利です。
飲み物の温度を工夫する
冷たいお水を嫌がる親御さんには、常温の水や白湯(さゆ)を試してみるのがよいでしょう。高齢になると、冷たい飲み物でお腹が冷えやすくなったり、歯にしみたり、喉への刺激でむせやすくなったりすると感じる人もいます。一方で、気温の高い日などは、少し冷やした飲み物の方がすっきりと喉を通りやすいという人もいます。
本人が「どのくらいの温度なら心地よく飲めるか」をさりげなく確認することが大切になるかと思います。お水をあまり飲まない場合でも、香ばしい麦茶やほうじ茶、白湯、あるいは少し薄めたスポーツドリンクなど、いくつかの種類を試してみることで、本人の好みに合うものを見つけられるかと思います。
味付けを少し変えてみる
味のない水だけではなかなか飲まないという場合は、少し味のある飲み物を取り入れてみるのも一つの方法です。麦茶やほうじ茶のほか、ノンカフェインのルイボスティー、レモンを数滴絞ったお水、適度に薄めた経口補水液など、本人が美味しいと感じる味を探してみましょう。ただし、甘いジュースや清涼飲料水ばかりにすると糖分の摂りすぎが心配されるため、普段のメインにする飲み物は、控えめな味付けのものが向いています。
また、緑茶やコーヒーを好まれる方も多いですが、これらにはカフェインが含まれており、利尿作用によってかえって水分が体外に出やすくなる一面もあります。カフェイン入りの飲み物だけで一日の水分をまかなう形は避け、特に夕方以降は夜間のトイレの回数が増えて睡眠に影響することもあるため、提供する時間帯にも少し配慮しておくと安心です。
食事のメニューから水分を取り入れる
どうしても飲み物を口にしたがらない場合は、日々の食事から水分を補給する方法が有効です。みそ汁やスープ、煮物、茶碗蒸し、ヨーグルト、ゼリー、果物などは、多くの水分を含んでいる食品です。食事の量が全体的に減っている親御さんの場合は、飲み物単体で捉えず、喉を通りやすい食品をメニューに組み込んで水分を補ってみてください。
- 毎食に温かいみそ汁やスープを一口でも添える
- パサつきやすいおかずは、煮物やあんかけ料理にして水分を含ませる
- ヨーグルトやプリン、ゼリーなどを食後や間食に取り入れる
- みずみずしい果物を食べやすい大きさにカットして出す
- おひたしなど、汁気を含んだおかずを一品増やす
なお、飲み込む力が弱くなっている方の場合は、サラサラしたお水や汁物ほど喉に勢いよく入ってむせやすくなることがあります。むせが頻繁に見られる場合は、市販のとろみ調整食品を使った方が安全かどうか、医師や看護師、言語聴覚士などの専門職に相談してみるのが確実です。
コップの選び方や置き場所を見直す
せっかく飲み物を用意していても、本人が手を伸ばしにくい場所に置かれていると、飲む機会は増えません。いつも座るソファの横、食卓、ベッドサイドなど、親御さんの目に入りやすく、自然と手が届く位置に配置してみましょう。また、重いガラスのコップや持ち手のない器を使っている場合は、軽量のプラスチック製やマグカップのように持ちやすいものに替えてみるのも効果的です。
- 本人がいつも過ごす場所の、すぐ手の届く位置に置く
- 軽くて落としても割れにくい素材のコップを選ぶ
- こぼれるのが心配な場合は、ふた付きやストロー付きの容器を活用する
- 底が広くて倒れにくい形のコップにする
- 視力が低下していても認識しやすいよう、はっきりした色合いのコップにする
認知症がある方の場合、目の前に飲み物があっても「それを手にとって飲む」という一連の動作に結びつかないことがあります。その場合は、ただ声をかけるだけでなく、ご家族も一緒にコップを持って「お茶が美味しいね」と一口飲んで見せると、本人がその動作をまねてスムーズに飲んでくれることがあります。
トイレの不安に寄り添う対応
水分を控える理由として非常に多いのが、「トイレに間に合わなかったら困る」「夜中に何度も起きたくない」という排泄への不安です。しかし、トイレに行きたくないからと水分を極端に減らしてしまうと、脱水だけでなく便秘や尿路感染症(膀胱炎など)のリスクが高まり、かえって体調を崩しやすくなります。排泄が心配な場合は、日中の活動的な時間帯にしっかりと水分を摂ってもらい、夕方以降の量や飲み物の種類を調整していくのが安全な方法です。
また、夜間のトイレ移動が負担になっているようであれば、寝室からトイレまでの動線を片付ける、足元灯を設置する、手すりを取り付ける、脱ぎ着しやすい衣服にするなど、環境面を見直すことで不安を和らげることができます。もし頻尿や尿もれ自体にお悩みがある場合は、年齢のせいと我慢せず、泌尿器科やかかりつけ医へ相談してみるのも大切な自衛策です。
優しく促す声かけの工夫
水分を摂ってほしいあまり、ご家族が「ちゃんと飲まないと脱水になって危ないよ!」と強く言ってしまうと、本人は叱られたように感じて頑なに拒否してしまうことがあります。声かけの際は、理由を長く説明するよりも、短く具体的に、安心感を与える言葉選びを意識してみましょう。
例えば、「これ、冷たくて美味しいから少し飲んでみようか」「お薬を飲む前に、お口を潤すために一口どうぞ」「私もお茶を入れたから、一緒に一息つこう」といった誘い方であれば、本人も素直に受け入れやすくなります。もし飲めた量がほんの少しであっても、「飲んでくれてよかった」と肯定的に接することが、お互いのストレスを減らし、習慣を長く続けていくコツになります。
持病がある場合の注意点
心臓病、腎臓病、肝臓病などの持病があり、医師から水分や塩分の摂取制限を受けている親御さんの場合は、ご家族の判断だけで水分量を増やさないよう十分注意してください。熱中症対策としてよく勧められる経口補水液やスポーツドリンクも、塩分や糖分が比較的多く含まれているため、持病のコントロールに影響を与えることがあります。
利尿薬を処方されている方や、手足のむくみが強い方、透析治療を受けられている方も、水分の摂り方には個別の細やかな管理が必要です。どの種類の飲み物を、一日にどのくらいの量まで摂ってよいのか、あらかじめかかりつけ医や薬剤師、管理栄養士に確認し、指示に従うようにしてください。
専門職への相談や受診を検討したほうがよいサイン
水分をどうしても飲みたがらない状態が続き、以下のような気になる様子が見られるときは、年齢のせいと決めつけず、早めにかかりつけ医や地域包括支援センターなどの専門窓口へ相談することが大切です。
- 一日を通して、水分をほとんど口にしていない
- 食事の量も一緒に落ちてしまっている
- 尿の回数が極端に少ない、または一日中出ていない
- 立ち上がったときのふらつきや、めまいが強そうに見える
- 発熱、下痢、嘔吐などの症状がある
- いつもより明らかにぐったりしている
- 声をかけたときの受け答えや意識がどこかぼんやりしている
- 飲み物を飲むときに、ひどくむせることが増えた
高齢者の脱水症状は、本人がつらさやのどの渇きを訴えないまま、静かに進行してしまう特徴があります。「いつもとどこか様子が違うな」と感じる違和感は、体調の変化を知らせる大切なサインとして捉えるのがよいかと思います。
家族が無理なく続けられる形を見つける
親御さんの脱水予防や水分補給は、一日だけ特別なことをして解決するものではなく、日々の生活の中で続いていくことだからこそ、ご家族が準備に追われて疲弊してしまわないよう、無理のない仕組みを作ることが大切になります。飲み物をあらかじめ小分けにして冷蔵庫に入れておく、毎食のお汁物を定番にする、市販のゼリーを常備しておくなど、家庭の中で「これなら楽に続けられる」という方法を選んでみてください。
のどが渇かないのか、トイレが不安なのか、あるいは飲むこと自体が少し億劫になっているのかなど、親御さんが水分を欲しがらない理由に目を向けながら、安心して口にできる選択肢を一つずつ増やしていきましょう。
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