親の食事の量が少なくなってくると、家族としては体調や体力の面での心配も募っていきます。年齢を重ねるにつれて食べる量が多少変化することはありますが、少ない状態が続くと体重や筋肉量が落ち、立ち上がりや歩行などの日常の動作にも影響が出やすくなります。低栄養の状態は心身の活力が低下する「フレイル」の要因にもなるため、単なる食欲の問題と捉えず、原因やこれからの工夫を一つずつ確認していきましょう。
食事量が減ったときの確認のポイント
食べる量が減ってきたと感じたら、まずは「何がどのように残されているか」をそっと確認してみましょう。ごはんなどの主食を残すのか、おかずを多く残すのか、あるいは肉や魚を避けているのかといった傾向によって、対応のヒントが見つかりやすくなります。
- 一食あたりの全体的な量が明らかに減っている
- 肉や魚などのメインのおかずを残すことが増えた
- やわらかい食べ物ばかりを好んで選ぶ
- 食事を終えるまでに、以前より長い時間がかかる
- 食事の最中や食後にむせることがある
- ここ最近、明らかに体重が減ってきた
- 普段着ている服やズボンのウエストがゆるくなっている
- 食後にひどく疲れたような様子を見せる
一時的な疲れや気分の変化で食べられない日もあります。ただ、こうした状態が数日から数週間続いている場合は、噛む・飲み込む力や、身体のコンディションに何らかの変化が生じている可能性も考えられます。受診や専門窓口への相談をしやすくするため、食べ残しの傾向や体重の変化などをメモしておきましょう。
食事を摂りにくくなる主な理由
あまり食事を進められない背景には、さまざまな理由が考えられます。「お腹が空かない」という食欲の問題だけでなく、噛みにくい、飲み込みにくい、味が分かりにくい、あるいは口の中に痛みがある、入れ歯の噛み合わせが合わなくなっているなど、身体的な不調が隠れている場合も考えられます。
また、一人暮らしの場合は、日々の買い物や調理が負担となり、食事のメニューが簡単で偏ったものになっていることもあります。もし認知症の兆候がある場合は、食事の時間そのものを忘れてしまったり、料理の段取りが難しくなって手をつけられなかったりすることもあります。本人に「どうして食べないの?」と尋ねるだけでは原因が分からないことも多いため、食事の場面や日頃の生活の様子をセットでそっと見守ることが大切になってきます。
高齢期の「低栄養」への注意
低栄養とは、身体に必要なエネルギーやたんぱく質が不足し、健康な状態を保つための力が弱まっている状態を指します。高齢期は、食べる量の低下やお口の機能の衰えが低栄養に深く関わっていて、フレイルを招く重要な要因ともされています。
低栄養の影響は、体重が減るだけにとどまらず、筋肉量が落ちることで立ち上がりや歩行が不安定になり、転倒のリスクが高まることがあります。また、免疫力が低下して風邪などの感染症にかかりやすくなったり、体調を崩したときの回復に時間がかかったりすることもあります。食欲のチェックとあわせて、歩き方や疲れやすさ、外出の頻度なども確認しておきたいポイントです。
食事の時間を負担にさせない工夫
親の食べる量が減っていると、家族としては「体力をつけてほしいから、もっと食べて」と声をかけたくなるものです。しかし、強く勧めすぎると食事の時間そのものがプレッシャーになってしまうこともあります。一度にたくさんの量を食べてもらうことより、本人が無理なく口にできる形で、少しずつ栄養を補える工夫を検討してみましょう。
- 一回に盛り付ける量をあらかじめ少なめにする
- 大皿ではなく、小皿に少しずつ分けて出す
- 主食だけでなく、たんぱく質が含まれるおかずを一口でも取り入れる
- お汁物やあんかけなど、水分があって喉を通りやすい料理を増やす
- 本人が昔から好きな味付けのメニューを一品添える
- 急かさず、本人のペースでゆったり食べてもらう
たくさん残してしまうと、本人も「申し訳ない」「食べられなくなった」と落ち込んでしまうことがあります。最初から「これくらいなら食べ切れそう」と思える少なめの量で提供し、まだ食べられそうであれば追加する形にする方が、食卓の雰囲気も和やかにできるかと思います。
効率よく「たんぱく質」を意識する
食べる量が減っているときこそ、意識しておきたいのがたんぱく質です。食欲が落ちると、肉や魚、卵、大豆製品、乳製品といったおかずが不足しがちになります。たんぱく質が足りなくなると筋肉を維持する力が弱まってしまうため、少量でも効率よく摂れる工夫を取り入れてみてください。
- 卵焼きや茶碗蒸しなど、やわらかい卵料理
- 豆腐や納豆、湯豆腐などの大豆製品
- 骨を取り除いてやわらかく煮た魚の煮付け
- ひき肉を使ったり、じっくり煮込んだりしたお肉
- 手軽に食べられるヨーグルトやプリン
- おかずに少し混ぜやすい粉チーズやスライスチーズ
- 牛乳や豆乳、またはそれらを使ったスープ
お肉や魚が噛みにくい様子であれば、無理をせずひき肉や豆腐、卵、乳製品などの喉越しの良い食品に置き換えるのも一つの方法です。主食(ごはんやパン)だけで食事を終わらせず、一口でもたんぱく質が含まれるものを一緒に摂れるよう組み合わせを工夫してみるのがおすすめです。
お口の中の状態と飲み込みの確認
食べる量が減ってしまった原因が、お口の中のトラブルにあるケースもよく見られます。歯ぐきの痛みや口の渇き(ドライマウス)、入れ歯の不具合、噛む・飲み込む力の低下があると、食事を摂ること自体が苦痛になってしまうためです。
- 食事の途中で頻繁にむせる
- 食べ物を飲み込まず、口の中にずっとためている
- 噛んでから飲み込むまでに時間がかかる
- 硬いせんべいや繊維質の多い生野菜などを避けるようになった
- 食事のときに入れ歯を外したがる、または外して食べる
- 口の中を気にする、または痛がることがある
- 以前に比べて口臭が強くなった気がする
このような変化に気づいた場合は、無理に食事の工夫だけで解決しようとせず、歯科医院やかかりつけの医師に一度相談してみるのが安心です。特に「むせ」が増えている場合は、誤嚥(ごえん)のリスクも考えられます。必要に応じて専門職の力を借り、お口のケアや入れ歯の調整をしてもらうことが、食欲を取り戻すきっかけになることもあります。
間食や栄養補助食品の取り入れ方
朝・昼・晩の三食だけでは十分な栄養が摂りきれない場合、おやつの時間(間食)をうまく活用して補う方法もあります。クッキーなどのお菓子だけでなく、ヨーグルトやプリン、ゼリー、チーズ、バナナなどを取り入れると、少ない量でもエネルギーやたんぱく質を補給しやすくなります。
最近では、ドラッグストア等で手軽に購入できる医療・介護向けの「栄養補助ゼリー」や「栄養補助飲料」も種類が豊富です。ただし、糖尿病や腎臓病などで医師から食事制限の指示が出ている場合は、自己判断でこれらを増やすと思わぬ負担になることがあります。持病がある場合は、事前にかかりつけ医や管理栄養士、薬剤師などに確認した上で取り入れるようにします。
落ち着いて食べられる環境の調整
食事の量は、料理そのものの内容だけでなく、食事をする環境にも大きく左右されるといわれています。例えば、テレビの音が大きすぎて集中できなかったり、部屋が少し暗くて料理が見えにくかったり、椅子や机の高さが身体に合っていなかったりすることも、食事を億劫にさせる要因になりえます。
- 食卓や部屋の明るさをしっかり確保する
- 椅子に深く座り、足の裏が床にしっかりつくように調整する
- 重くて持ちにくいお皿を、軽くて持ちやすいプラスチック製や木製の食器に替える
- 食べる姿勢が前かがみや横に傾かないよう、クッションなどで安定させる
- 食事中の声かけは、本人のペースを尊重し、急かさないように気をつける
- 可能であれば、誰かと一緒におしゃべりをしながら食べる時間を作る
本人がリラックスして食事に向き合える環境を整えることで、自然と箸が進むようになることもあります。食べる量という結果だけを見るのではなく、食事の時間そのものが本人にとって心地よいものになっているか、一度確認してみるのもよいでしょう。
医療機関への受診や相談を検討するサイン
食事量が目に見えて落ちている状態が続くときは、年齢のせいと決めつけず、早めに医療機関や専門職へ相談することが大切になります。特に、以下のようなサインが見られる場合は、体調不良や隠れた病気の影響も考えられるため、注意深く見守る必要があります。
- 数日間にわたって、食事の量が明らかに普段よりかなり少ない
- ここ数ヶ月で体重が目に見えて減っている
- 食事だけでなく、お茶や水などの水分もあまり摂れていない
- 食事中や水分を飲むときに、むせることが増えた
- 身体の強いだるさや、微熱・発熱が続いている
- 急にぼんやりすることが増え、元気がなくなっている
- 食べ物を飲み込むこと自体を嫌がる様子がある
- 口の中の痛みや不快感を強く訴える
食欲不振の背景には、口腔内のトラブルや便秘、服用しているお薬の副作用のほか、感染症や消化器系の疾患、さらには抑うつ傾向や認知機能の変化などが関わっていることもあります。おかしいなと感じたら、まずはかかりつけ医を受診してみるのが安心です。
家族として並走するために
親の食べる量が減ってきたとき、ご家族がまずできる大切なサポートは、日々の食事量や体調の変化を記録しておくことです。何をどのくらい食べられたか、体重の増減はあるか、むせや口の痛みはないか、お薬はきちんと飲めているかなどをメモしておくと、医師やケアマネジャーに相談する際の貴重な資料になります。
食べられない親御さんを責めたり、無理に強要したりする必要はありません。食べにくくなっている理由を一つずつ紐解きながら、今口にできるものを一緒に見つけて、必要に応じて医療や介護の専門職の手を借りていきましょう。食事は元気な暮らしを支える大切な土台ですので、早めの気づきとサポートがこれからの筋力や健康を維持するための力にもなっていくかと思います。
