認知症と診断された後の手続き

家族が認知症と診断されたとき、何から手をつければよいのかわからず、気持ちの整理もつかないまま時間が過ぎてしまうことがあるかと思います。

診断の直後はとくに、制度の手続きや今後の準備について考える余裕がないこともあります。ただ、認知症の初期段階は本人の意思をまだ確認できる時期でもあるため、できることから少しずつ動いておくことが、後になって助けになることも多いとされています。

この記事では、診断後に取り組むことが多い手続きや準備について、時期ごとに整理してみます。すべてを一度にこなす必要はありませんので、状況に応じて参考にしていただければと思います。

診断後すぐに取り組むこと

診断の内容をしっかり確認する

主治医から説明を受けた内容は、できるだけその場でメモを取っておくとよいかと思います。認知症の種類や現在の状態、今後の治療の方針など、後から家族に伝えたり、ほかの医療機関で相談したりするときにも役立ちます。

お薬手帳は服薬の管理に役立つだけでなく、複数の医療機関を受診するときに薬の情報を共有しやすくなります。診断を受けたタイミングで、内容をあらためて整理しておくとよいでしょう。

  • 認知症の種類(アルツハイマー型、レビー小体型など)
  • 現在の症状の程度(軽度・中等度・重度)
  • 今後の経過見通しと治療・ケアの方針
  • 服薬内容と注意事項

家族や周囲の人に状況を伝える

診断の内容を家族や信頼できる人と共有することは、その後のサポートを組み立てていくうえで大切な一歩になります。同居している家族だけでなく、遠方に住む家族にも早めに連絡しておくと、いざというときの対応がしやすくなります。

また、すでにかかりつけ医やケアマネジャーがいる場合には、診断を受けたことを報告しておくと、今後の対応を一緒に考えてもらいやすくなるかと思います。

運転免許について確認する

道路交通法では、認知症と診断された場合には運転免許の停止や取り消しの対象になります。本人が運転を続けている場合は、主治医や警察署に相談しながら対応を検討することになります。

ご家族から見ていて「運転が心配」と感じている場合は、早めに相談しておくことで、本人への説明のしかたや手続きの進め方についてアドバイスをもらえることもあります。

診断から1〜3か月の間に準備しておくこと

介護保険の申請

介護サービスを利用するためには、まず市区町村に要介護認定の申請をする必要があります。申請から認定結果が出るまでに通常1か月程度かかるため、「まだ早いかも」と思うタイミングでも早めに動いておくと、実際にサービスが必要になったときにスムーズに利用しやすくなります。

申請の窓口は市区町村の介護保険担当課になります。地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すると、手続きを代行してもらえる場合もあります。申請後は自宅での認定調査と主治医の意見書をもとに、要支援1〜2・要介護1〜5のいずれかに認定される流れになります。

介護保険サービス申請から利用開始までの流れ

ケアマネジャーを決める

要介護認定を受けた後は、介護サービスの調整を担うケアマネジャー(介護支援専門員)を選ぶことになります。地域の居宅介護支援事業所に問い合わせるか、地域包括支援センターに相談すると紹介してもらえます。

ケアマネジャーは、本人の状態や生活の希望をふまえてケアプランを作成し、複数のサービスを組み合わせる調整役を担ってくれます。最初から「この人でなければ」と決めなくても、合わないと感じたときは変更することもできます。

ケアマネージャーへの依頼方法 比較検討の仕方

地域包括支援センターへの相談

地域包括支援センターは、介護・医療・生活に関する相談を幅広く受け付けている地域の相談窓口です。介護保険の申請手続きの案内をしてもらえるほか、成年後見制度や地域のサービスについても情報を得ることができます。

「何をすればよいかわからない」という段階でも相談できる場所ですので、まずここに連絡してみるのがよいかと思います。市区町村のホームページで近くのセンターを確認することができます。

地域包括支援センターを活用する方法

お金の管理について見直す

認知症が進むと、金融機関での手続きや日常的な金銭管理が難しくなることがあります。本人がまだ判断できる段階のうちに、預貯金口座の整理や、公共料金などの定期支払いの管理方法を確認しておくと、後々の対応がしやすくなります。

信頼できる家族と一緒に通帳や契約の内容を確認しておく、引き落としの手続きを整理しておくなど、日常的な管理の仕組みを早めに整えておくことが、トラブルの予防につながります。

長期的に考えておきたいこと

成年後見制度について知っておく

認知症が進行して判断能力が低下した場合、財産の管理や契約手続きをご本人に代わって行う仕組みとして、成年後見制度があります。

制度には大きく2種類あります。ひとつは「法定後見制度」で、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任する仕組みです。もうひとつは「任意後見制度」で、判断能力があるうちに本人が信頼できる人を選び、公証役場で契約しておくものです。任意後見は本人の意思を反映しやすいという点で、早めに検討しておくことが勧められることが多いとされています。

どちらの制度が合っているかは状況によって異なりますので、地域包括支援センターや法テラス(0570-078374)に相談してみるのもよいかと思います。

遺言書やエンディングノートについて

将来の財産のことや医療・介護に関する希望を、本人が意思表示できるうちに形にしておくことは、家族にとっても大きな助けになります。

遺言書には種類がありますが、公証人が関わる公正証書遺言は法的効力が確かで、後から内容をめぐってトラブルになりにくいとされています。エンディングノートは法的な効力はないものの、延命治療への希望や介護の希望をまとめておくツールとして、家族が方針を決める際の参考になります。

在宅サービスの活用を考える

認知症の状態が進む中でも、住み慣れた自宅での生活を続けるために、さまざまな在宅サービスを組み合わせることができます。訪問介護(ホームヘルプ)や通所介護(デイサービス)のほか、看護師がご自宅を訪問する訪問看護、リハビリに特化した訪問リハビリなども利用できます。

また、少人数で共同生活しながら介護を受けるグループホームや、地域の認知症カフェなど、本人が社会とのつながりを保てる場所も増えています。ケアマネジャーに相談しながら、その時々の状態に合ったサービスを探していくことになるかと思います。

訪問介護の内容とポイント

日常生活での連携とサポート体制

制度の手続きと並行して、日々の生活を支える「人のつながり」を整えることも大切です。認知症の方が安心して暮らすためには、同居家族・遠方の家族・地域の人がそれぞれの形で関わっていくことが、長期的なケアの基盤になります。

同居家族の関わり方

一緒に暮らす家族は、本人の変化にもっとも早く気づける立場にいます。ただ、それだけに介護の負担が集中しやすく、気づかないうちに無理をしてしまうこともあります。

日々の関わりの中では、本人ができることはなるべく本人にやってもらい、過度に手を出しすぎないことが大切だといわれています。カレンダーやホワイトボードに予定や日付を書いておく、服薬の時間がわかるよう工夫するなど、「見える化」の工夫が生活を安定させる助けになることがあります。

また、徘徊が心配な場合には、GPS端末の活用玄関へのセンサー設置を検討する家族もいます。万が一のときに備えて、普段から外出の様子を把握しておくことも大切かと思います。

同居の家族自身の体調や精神的な余裕を保つことも、長く介護を続けていくうえでは欠かせません。デイサービスやショートステイを活用して「介護から離れる時間」を意識的につくることは、決して手を抜くことではなく、持続可能なケアのために必要なことだと考えていただけるとよいかと思います。

遠方に住む家族との連携

遠方に住んでいると、日常的な様子を把握しづらく、「何かあったときに動けるだろうか」と不安を感じている方も多いかと思います。

日頃からの情報共有の仕組みを作っておくことが、こうした不安を和らげる助けになります。家族のグループLINEで日常の様子を共有する、週に一度定期的に電話やビデオ通話をするといった方法は、無理なく続けやすいかと思います。

受診記録や服薬・体調の変化をまとめた「介護ノート」をつけておくと、帰省した際に状況をすぐに把握できるだけでなく、ケアマネジャーや主治医との面談にも活用できます。緊急連絡先や医療機関の情報、服薬内容などをクラウドや共有メモにまとめておくと、遠方の家族も必要なときにすぐ確認できます。

帰省した際には、ケアマネジャーや主治医との面談に同席する機会を設けておくとよいかと思います。同居の家族だけでは気づきにくいことを別の視点から確認したり、今後の方針について一緒に考えたりすることができます。

手段 活用方法 ポイント
LINEグループ・家族チャット 日常の様子・体調変化を写真や短いメッセージで共有 返信の負担が少なく、記録にもなる
定期電話・ビデオ通話 週1回など頻度を決めて本人・同居家族と通話 本人の声を聞くことで変化に気づきやすい
介護ノート・連絡帳 受診記録・服薬・体調などを記録し家族間で共有 ケアマネジャーとの連携にも活用できる
クラウド共有(Googleドキュメント等) 病院名・薬の情報・緊急連絡先などを一元管理 誰でも最新情報を確認できる

見守り介護とは?在宅支援に役立つ最新機器

近所や地域とのつながり

認知症の方が地域の中で安心して暮らすためには、近隣の方との日頃からの関係が助けになることがあります。「もし外で困っている様子があれば声をかけてもらえますか」と一言伝えておくだけでも、何かあったときに助けてもらいやすくなります。

自治会や民生委員が関わる見守りネットワークに参加・登録しておくことも、一つの手段です。また、かかりつけの薬局や近所の商店のスタッフに顔を覚えてもらっておくと、日常の中で変化に気づいてもらえることがあります。

自治体によっては「認知症高齢者等見守りSOSネットワーク」に事前登録できる仕組みがあり、行方不明になった際に地域全体で対応できる体制が整っている地域もあります。市区町村の窓口で確認してみるとよいかと思います。

認知症サポーター養成講座は、地域の方が認知症について学べる無料の講座です。こうした取り組みを通じて地域の理解が広がっていくことが、認知症の方が暮らしやすい環境につながっていくかと思います。

緊急時に備えておくこと

日常のケアとあわせて、万が一のときに家族や関係者が迷わず動けるよう、あらかじめ準備しておくことも大切です。

同居家族・遠方家族・主治医・ケアマネジャー・救急の連絡先をまとめた「緊急連絡先リスト」を作成し、見やすい場所に貼っておくと、いざというときに落ち着いて対応しやすくなります。本人が外出中に迷子になった場合に備えて、GPS端末の携帯や、衣類・持ち物に名前と連絡先を記入しておく方法もあります。

また、救急搬送されたときに備えて、既往症・服薬内容・アレルギーなどの情報をお薬手帳にまとめて携帯させておくことも大切です。入院や手術の際の同意について、延命処置に関する意思なども含めて、家族間であらかじめ話し合っておけるとよいかと思います。

準備事項 内容
緊急連絡先リストの作成 同居家族・遠方家族・主治医・ケアマネジャー・救急の連絡先を一枚にまとめ、見やすい場所に貼っておく
行方不明時の対応手順 迷子になりやすい場所の把握、警察・地域への連絡手順の確認、GPS端末の活用
かかりつけ医への事前共有 本人の既往症・服薬・アレルギー情報を医療機関と共有しておく(お薬手帳の携帯)
救急時の意思確認 入院・手術の際の同意者、延命処置に関する意思を家族間で確認しておく
鍵・財布の管理 予備の鍵を信頼できる家族・近所に預け、財布の持ち歩き方も状況に応じて工夫する

困ったときの相談先

手続きや制度、日常のケアについて迷ったときは、以下の窓口に相談することができます。一人で抱え込まず、専門家や支援機関を積極的に頼っていただければと思います。

相談先 主な相談内容
地域包括支援センター 介護・医療・生活全般。市区町村のホームページで近くのセンターを確認できます。
認知症の人と家族の会 当事者・家族によるピアサポート。全国に支部があり、電話相談も利用できます。
認知症疾患医療センター 専門医療機関への紹介や医療相談。都道府県が指定した専門機関です。
法テラス(日本司法支援センター) 成年後見・相続など法的な相談。電話:0570-078374
市区町村の福祉窓口 各種制度の申請や手続き案内。

最後に

認知症の診断後は、手続きや準備について考えなければならないことが多く、どこから手をつければよいかわからなくなることもあるかと思います。

ただ、すべてを一度にこなす必要はありませんし、完璧に備えなければならないわけでもありません。地域包括支援センターやケアマネジャーに相談しながら、状況に応じて一つひとつ進めていければよいと思います。

また制度の手続きと同じくらい大切なのが、「人のつながり」を整えておくことだと思います。同居家族が無理のない体制でケアを続けられるよう、遠方の家族とも日頃から情報を共有しながら、地域との関係も少しずつ育てていけると、いざというときに一人で抱え込まずに済むかと思います。

本人が安心して過ごせる時間を、できるだけ長く続けていけるよう、無理のない範囲でできることから始めてみていただければと思います。

この記事の内容は一般的な情報を基にした概説です。お住まいの地域や個々の状況によって手続きや利用できるサービスが異なる場合があります。詳しくは専門家や地域の窓口にご相談ください。
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