成年後見制度と家族信託 ― 財産管理の選択肢

親の物忘れが増えてきたとき、介護と同時に考えておきたいのが財産管理です。預金の管理や施設費の支払い、不動産の売却などは、本人の判断力が低下すると家族だけでは進められなくなります。そこで活用できるのが「成年後見制度」と「家族信託」ですが、両者の役割は大きく異なります。本人の状態・財産の内容・家族の合意という三点を順に整理したうえで、どちらが適しているかを検討することをおすすめします。

二つの制度の違い

成年後見制度 ― 本人保護を優先する仕組み

判断能力が十分でない方を法律面から守るための制度です。家庭裁判所が関与し、後見人が預金管理や各種契約手続きを代理します。判断力の低下程度に応じて「後見・保佐・補助」の三区分があり、介護施設の契約締結や悪質な契約からの保護まで幅広く対応できます。一度申し立てると原則として継続が前提となります。必ずしも家族が後見人に選ばれるとは限りません。

家族信託 ― 本人の意思で設計する仕組み

本人がまだ元気なうちに「誰が・何を・どのように管理するか」を契約で決めておく仕組みです。裁判所の関与は原則不要で、不動産管理や将来の承継まで視野に入れた柔軟な設計が可能です。ただし、契約時点で本人が内容を理解・同意できる状態であることが必須条件となります。財産管理に特化した契約であるため、介護施設の契約締結など本人保護の機能は持ちません。

制度選びの三つの確認ポイント

① 本人の判断力を確認する

最初に確認するのは、本人が契約内容を理解できる状態かどうかです。「まだ判断できる」段階では家族信託、「すでに契約が難しい」段階では成年後見制度が現実的な選択肢となります。銀行手続きの理解度や日常の支払い管理の状況を日頃から確認しておくとよいかと思います。

② 管理したい財産の内容を書き出す

預貯金・不動産・株式・家賃収入・毎月の支払い先を一覧にすると、どちらの制度が適しているかが見えてきます。成年後見制度は日常の支払いや各種契約手続きに対応しやすく、家族信託は不動産管理や将来の承継まで設計できます。自宅や賃貸物件があり将来の売却も想定されるなら、家族信託を検討する意義は大きいといえます。

③ 家族間の合意形成を確認する

家族信託は、誰が財産を管理し誰に報告するかを家族自身が決めます。役割分担への納得・収支報告の受け入れ・負担の偏りがないかを事前に確認してください。ただし、家族間で対立がある場合は、裁判所が関与する成年後見制度の方が進めやすいケースもありえます。

費用・併用・相談先について

費用だけで制度を選ぶのは避けた方がよいかと思います。成年後見制度は申し立て後も継続的な報酬が発生しますし、家族信託は契約設計段階でまとまった費用がかかります。金額ではなく「何のために払うか」を基準に判断するのがよいです。

また、二つの制度は必ずしもどちらか一方ではなく、不動産管理は家族信託、本人保護が必要な場面では成年後見制度と役割を分けて併用することも可能です。相談の際は「今困っている場面」を具体的に伝えることが大切になります。成年後見制度は家庭裁判所・司法書士・弁護士へ、家族信託は信託を扱う司法書士・弁護士・税理士への相談となります。

まとめ

項目 成年後見制度 家族信託
主な目的 判断能力が十分でない本人を法律面から守る 家族に財産管理を託し、使い方や承継方法を決めておく
使い始める時期 判断能力が低下した後に利用を検討する 本人が契約内容を理解して決められるうちに準備する
家庭裁判所の関与 ある 原則としてない
本人保護 強い 財産管理が中心で、本人保護そのものを広く担う制度ではない
財産管理の自由度 制度の枠組みに沿って進む 契約内容に応じて家族で決められる範囲が広い
不動産管理との相性 可能だが、裁判所の関与のもとで進む 自宅や賃貸物件の管理、承継先の設定まで考えやすい
家族内での合意 意見が割れていても進めやすい 家族の信頼関係と役割分担が重要になる
向いている場面 本人だけで契約や財産管理を進めるのが難しいとき 将来の認知症に備え、元気なうちに財産管理を決めたいとき
注意したい点 一度始まると家族の都合だけでやめる前提ではない 契約内容が曖昧だと運用で家族が困る

成年後見制度と家族信託のどちらが適しているかは、「本人の判断力」「財産の内容」「家族の合意」の三点を順番に確認することで見えてきます。「本人保護を今すぐ進める必要があるか」「将来の財産管理を本人の意思で決めておきたいか」という問いを出発点に、早めに専門職へ相談されることをおすすめします。まだその段階でないとしても、介護の備えと並行して、財産管理の準備のための情報集めを進めていただければと思います。

タイトルとURLをコピーしました