認知症の親が夜間に外へ出てしまう行動は、家族にとって大きな不安を伴う出来事です。昼間は穏やかに過ごしていても、夜になると突然玄関に向かう、鍵を探す、外へ出ようとするなどの行動が見られることがあります。事故や転倒、行方不明の可能性を考えると心配は尽きませんが、感情的に止めようとするとかえって混乱を招くこともあります。
この記事では、夜間外出が起こる背景を整理しながら、安全確保の方法、予防策、相談先、そして事故が起きた場合の法的責任の考え方についてまとめてみます。
なぜ夜間に外出しようとするのか
夜間外出の背景には、いくつかの要因が重なっている場合が多いようです。代表的なのは見当識障害で、時間や場所の認識があいまいになり、「仕事に行かなければならない」「家族を迎えに行く時間だ」と思い込むことがあります。本人にとっては合理的な行動であり、周囲が止めると混乱や怒りにつながることがあります。
また、昼夜逆転や不眠、頻尿、喉の渇きなど身体的な不快感がきっかけになることもあります。夕方から夜にかけて不安が強まる「夕暮れ症候群」と呼ばれる状態が影響する場合もあるとされています。
まず考えたいのは安全確保
夜間外出が見られたときは、まず本人の安全を守ることを優先します。強い口調で制止すると興奮を招くことがあるため、「外は寒いので明日の朝にしましょう」「少しお茶を飲んでからにしませんか」といった柔らかな声かけで注意をそらす方法が考えられます。
すでに外へ出てしまった場合は、近隣を確認し、それでも見つからないときは警察へ連絡します。行方不明届は早めに出すことが重要とされています。日頃から本人の写真や特徴を整理しておくと、万一のときに説明がしやすくなります。
環境面での予防策
物理的な対策としては、玄関に補助錠を設置する、ドアが開くと音が鳴るセンサーを設置する、家族の寝室にチャイムが鳴る仕組みを作るなどの方法があります。ただし、過度な閉じ込めにならないよう配慮が必要です。安全確保と尊厳の維持のバランスを意識することが大切です。
玄関周辺を暗めに保ち、リビングを安心できる空間に整えると、動線が内側に向かいやすくなることもあります。鏡を設置することで、自分の姿を見て動きが止まる場合もあるといわれています。
生活リズムの調整
日中の活動量が少ないと夜間覚醒につながる可能性があるといわれています。昼間に軽い散歩や体操を取り入れ、長時間の昼寝を避けることが夜間の安定に寄与する場合があります。夕方以降は刺激を減らし、就寝前の流れを一定に保つと安心感が生まれやすくなります。
医療的な視点からの確認
夜間せん妄、不眠症、排尿障害、薬の副作用などが背景にあることもあります。訪問診療やかかりつけ医に夜間の状況を具体的に伝えることで、薬の調整や治療方針の見直しが検討されることがあります。自己判断で薬を変更することは避け、専門職に相談することが望ましいです。
地域の支援制度の活用
自治体によっては、高齢者見守りネットワークや事前登録制度を設けています。氏名や写真、緊急連絡先を登録しておくことで、行方不明時の情報共有が迅速になる仕組みです。GPS端末の貸与や補助制度を設けている自治体もあります。
地域包括支援センターに相談すると、地域の支援制度や民間の見守りサービスについて案内を受けられます。介護保険サービスの利用を検討している場合は、ケアマネジャーに夜間の状況を共有し、ショートステイや訪問介護の活用について相談する方法もあります。
事故が起きた場合の法的責任について
万一、外出中に事故が発生した場合の責任については、多くの方が強い不安を抱くかと思います。一般的には、家族が常に全面的な責任を負うとは限らないとされています。過去の裁判例では、同居家族であっても、具体的な監督義務違反が認められない場合には損害賠償責任を負わないと判断された例があります。
ただし、状況によって判断は異なります。日常的に危険性が高いと認識していながら、何の対策も取っていなかった場合などは、一定の責任が問われる可能性も否定できません。重要なのは、現実的に可能な範囲で安全対策を講じていたかどうかという点です。
不安が強い場合は、弁護士や法テラスなどに相談することで、具体的な状況に応じた助言を受けることができます。また、個人賠償責任保険への加入を検討することも一つの備えになります。火災保険や自動車保険の特約に含まれていることもありますので、確認しておくと安心材料になるかもしれません。
家族の心身の負担にも目を向ける
夜間の見守りが続くと、家族は慢性的な睡眠不足になりやすく、判断力や体力が低下します。介護疲れは誰にでも起こり得るものであり、決して特別なことではありません。レスパイト(短期入院)利用や家族間での役割分担、専門職への早めの相談が、長期的な負担軽減につながります。
「もし事故が起きたらどうしよう」と考え続けることは、大きな精神的負担になります。できる対策を一つずつ整え、地域や専門職とつながっておくことが、不安を和らげてくれます。
まとめ
認知症による夜間外出は、本人の意思というよりも症状の一部として現れることが多いといわれています。背景を理解し、安全確保と予防策を組み合わせながら対応を重ねていくことが現実的な方法と考えられます。環境整備、生活リズムの見直し、医療相談、地域支援の活用、法的備えを含めて段階的に整えていくことで、家族だけで抱え込まない体制を作ることができるのではないでしょうか。
